こんな俺らでも。 (ページ45)

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俺の耳。2 ページ45

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橙side

「あー、こりゃもうダメだね〜」

先生がそう呟いたらしい。

前回の検査の時は90dbと伝えられた聴力は

120dbになっていた。

120dbというのは検査音の最大。

これが聞こえない。

『最重度難聴』

もしくは『聾』と言われる。

もうみんなの声は聞くことが出来ない。

そういうことやねん。

先生に渡された資料には「人工内耳」と書かれていた。

これしかもう対処法はないということだ。

「少し考えさせてください。」

これだけ伝えて診察室を出た。

車での帰り道。

いつもなら聞こえる雑音が聞こえない、静寂。

怖くて怖くて堪らなかった。

家に着いて

とりあえず、と先生から処方された突発性難聴の薬を流し込んで布団に潜り込んだ。

そのまま2時間くらい寝ちゃったらしくて、

目を覚ましたのは夕飯の少し前くらい。

スマホを見ると、舘さんからメッセージが。

舘さん今日はすき焼きです。早く来ないとなくなりますよ。

急いで共有スペースに行くくらいの元気はあるし、

食欲もある。

ただ、気持ち的に落ちてんねん。

あ、きたー！

と口の動き的に言ってるような気もするラウールが

勢いよく俺に近づいてきて

大きく手を広げた。

俺はラウールの車椅子の高さに合わせてしゃがみ込んだ。

すると思いっきりギューってしてくれた。

それだけですごく安心して。

涙をぐっと堪えた。

特に耳について触れてくる人はおらんかった。

そっちの方が有り難かった。

たぶん佐久間くんが俺の気持ちを汲み取ってくれたんやと思う。

いつものガヤガヤが聞こえない食卓は少しだけ寂しかった。

でも、みんなの笑顔に救われた。

食事の後、みんなに人工内耳について相談した。

橙「あのな、今日病院で人工内耳の手術勧められた。

高校生のときに重度の難聴だって言われた時にも進められたやつやってん。

そん時はまだいいって言うたけど。

でも今回はもう補聴器では限界で、人工内耳しかないって。

機械を埋め込むの怖いねん…

でも、みんなの声、また聞きたい…」

すると阿部ちゃんが勢いよくパソコンのタイピングを始めた。

パソコンをくるっと俺の方に向けて

見て。と言わんばかりの顔をした。

「俺は康二の意見を尊重する。

不安なことあっても、ここには色んな厳しい環境を乗り越えてきた8人がいるんだから安心でしょ？

手術を受けても受けなくても俺らは支えるよ。」

その言葉で俺の肩の荷がふっと軽くなった気がした。